この日出る国で過ごす日々もあと2日、ということで、けさは早起きして出かける人がいる。ヴィーチョ、マックス、チーポ、イヴァンは、大坂の超巨大水族館を訪れ、サムエルはおみやげを探しに歩き回る。
2時には、うわさを聞いて興味津々の観客の前での最後のコンサートのために、僕たち全員がステージの上にいた。 輸送の都合で限られてしまった機材の許す限り演奏曲目に少し変化をつける。 何曲かよけいに演奏できないかどうかという要請もあった。 コンサートはたくさんの共感する人々を集め、よりノッてる人たちのためにステージ前の椅子が何列かはずされていた。


最後にCDにサイン。 マサコ、マキ、セイヒ、カオルコ、ミホコ、それから、それから . . 。 日本人の女の子たちは、僕たちが頬にキスしようとすると、それはおろおろして、笑って顔が赤くなる - これ以上はないというぐらいに。 この国ではこういう習慣がないのだろうと思わせられる。
最後の市内探索、またでんでんタウンに行く。 サムエルはサウンドカードを、マックスは日本製のシンセ・ドラム、サウンドエンジニアのセムは中古のポータブル・パソコンを、それぞれ買う。
ネオンの海でざわめきと照明に驚愕するために、再び道頓堀へ、そして食べるところを探す。 ちょっと日本酒にやられてレストランを出た後、ビートニック・スタイルの小さなバーに行くことにする。 初期のストーンズや、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックスたちのピンナップで店中が飾られているところだ。 BGMは、イージーライダーと、ステッペンウルフ、フリー、などなど、そういう感じの曲。 バーの経営者は、フラワーチルドレンの気分をひきずったふうなボーっとした感じの二人。
お値段はこの大げさなシチュエーションに見あったもので、一杯出されるごとに払う。 マックスとニンジャは、フラワー・パワーとフリーク・ツアーのスタイルで、財布を握り締めながら何度も何度も注文を繰り返すことに苛立ち、 魅惑的なドクロの形のラベルがついたテキーラのボトルを一本、こっそりキープするという略式決定を実行に移す。 「よお兄弟、おれ、電離層から来たんだ、そりゃもう、ピース&ハーモニーなとこさァ。」 とかいうような雰囲気を強調する、ふぬけた笑顔を店の人に向けながら、二人はカウンターの暗闇にまぎれてグラスを干し続け、このボトルを空けてしまった。
日本酒とテキーラの効果は、さっそく、限りなくロック/ブルース的気分をもたらし、さらにそれをつのらせ、マックスは壁に掛けてあったギターを手に取ると、メタルのグラスをスライドさせながら弾き始める。 ニンジャはカメラを持ってマックスを追いかけ、もっとやれ〜、とけしかける。 状況は、「よぉし、モントレーのヘンドリックスみたいにカウンターぶち壊せ、止められるもんなら止めてみろ。」 という、いわばピークに迫っていた。

店の二人は、彼らの周りで起こっていることに狼狽しているようには全然見えない。 大統領 (訳注: マックスのこと。) がいつもの如く、かなりポーズでこんなことをやっているのはわかっていた。 それに、これ以上エスカレートさせようとも思っていなかったようで、ピート・タウンシェンドのまねをしたときもテーブルから20cmのところでストップして、みんなほっと胸をなでおろしたのだった。
あまり遅くならないうちに帰ることにする。 というのは、あしたは午前中に京都へ出発しようと思っているからだ。 地下鉄の終点コスモスクエアの駅から、僕たちのホテルまでは20分かかる。 それから、僕たちがいるところが人工島だということも知った。 至極現代的な建築物のまにまに、街灯、郊外だということを思わせる空き地、雨上がりの澄んだ空気の中に浮かび上がる高層建築物に取り付けられた、飛行機やヘリコプターのための点滅ライト . . 、この夜の風景はケミカル・ブラザーズの昔のビデオを思い出させた。 ホテルにたどり着いたあと、宵っ張りの鉄砲玉がひとり、一晩中、おしゃべりに我を忘れることになった。